タバコ工場 photo by Sakurai Bunyu
ファルケシュトラーセの屋上改装 |
戦間期ラショナリズムから ディコンストラクティヴィズム
1920年代には、ドイツのバウハウス校舎よりもさらにラディカルな、むしろロシア・コンストラクティヴィズムに近い建築が誕生し、透明ガラスが積極的に使われた。例えば、ドイツ人建築家ペーター・ベーレンスがリンツに設計したタバコ工場がある。ベーレンスは1922年から36年までウィーン美術アカデミーの教授職にあって、彼の下からはアート志向の「ウィーン世紀末建築」とは対極に立つ建築家たちが育っていった。
1980年代に現れるディコンストラクティヴィズムもまた、透明ガラスで空間をつくる点では、戦間期ラショナリズムの系譜に立つ。線画で描き出されてくる世界のイメージ、そして、その建築化。この建築化の作業には、線と線との間を埋めるガラスが決定的に重要な役割を演ずる。コープ・ヒンメルブラウやギュンター・ドメニクの作品などがその例である。
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境界の多様な可能性を楽しむ
ハースハウスの形態・素材の選択は歴史的・心理的意味に裏付けられて、芸術的で官能的であると同時に知的である。このように建築を心理的・言語的・歴史的・芸術的に捉える立場からすれば、ガラスを用いることが、内部にいる人間の肉体のみならず記憶や精神のあり方にとってどういう意味をもつのか、また、都市空間にどういう意味をもち、都市文化にどう貢献するのかといった諸点が、同時に考えられなければならない。
確かに、90年代を経て21世紀に入った今日では、「アートとエンジニアリングとの協働」が主流となり、オーストリアからスイスやドイツへとシフトしているように思われる。オーストリア国内を見れば、グラーツなどの地方都市に新しい傾向の建築が誕生している。
しかし、ここで、アドルフ・ロースの紳士服飾店クニーシェのファサードを見ると、磨き上げられた黒御影石の輝く面とショーウインドウのガラス面が、同じ質感をもっていることに気づく。ホラインも、レッティろうそく店やシュリン宝石店のファサードでは、金属プレートや大理石を鏡面のように磨き上げ、象徴的意味を込めている。
1990年代以降ガラスを巡る世界の建築界の動向は「ウィーン世紀末建築」とは別の方向を目指しているように書いたが、伊東豊雄が、せんだいメディアテークから最近のまつもと市民芸術館などに示しているデザイン手法の変化を見ると、境界の多様な可能性を試み、それを楽しもうとしている。これは、実はロースやホラインの姿勢に通じるものだ。(縮約文責・編集部)
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紳士服飾店クニーシェのファサード photo by Sakurai Bunyu
レッティろうそく店のファサード photo by Sakurai Bunyu
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