ケアの重要な一要素としての「空間」──こもれびの家

石井敏
1969年米国生。ヘルシンキ工科大学建築学科大学院課程在籍
日本医療福祉建築協会主催高齢者施設コンペ(1997)優秀賞




こもれびの家外観


小上がり
──距離をおいて台所、リビングを眺める

図版提供:著者

宮城県・名取市が建設した「こもれびの家」は、わが国にふさわしい新しいタイプのグループホームだ

集まる【リビング・囲炉裏の間・和室】
これまでのグループホームは、その空間構成上、居室を出ると強制的に人と関わらねばならなかった
ここでは、様々な共用空間を分散配置すると共に、居室前に緩衝帯を設け、「集まる」形を限定していない

座る【小上がり(畳コーナー)・踏み込み・玄関・縁側・中庭】
キッチン脇の小上がりでは、リビングでの様子を眺めたり、個人での利用、数人で交流している様子が見られる。居室前のベンチは、休憩や廊下・中庭を通して視覚的に他者と交流する場でもある。玄関や縁側など、多様な形の座る場所が多くの行為を生み出す
人を感じながら一人になる空間は、グループホームという共同生活だからこそ、重要なのだろう

眺める【キッチン・中庭・縁側・和室・小上がり】
キッチンはオープンカウンターで、調理に参加しない人も食堂から眺め、自分の出番をうかがい自発的に参加したり、「これから食事だ」という日常生活のリズムを作っている
リビングや廊下、縁側などは、屋外を眺めたり、中庭からリビングや玄関の様子を眺める場にもなっている

他人と住む【居室】
全室個室で、居室の廊下側に面した障子窓の開閉や、和風の続き間など、伝統的な手法で公私の空間を作り出す。他人と家庭的に住む形とは何か?空間の構成が大きな鍵をにぎる

感じる【中庭・廊下・囲炉裏・居室】
中庭や廊下で自然を感じる。座敷の囲炉裏は冬を感じさせ、昔の記憶に訴える。空間が五感に訴える


痴呆性老人の行為や生活の構成は非常に個人的で多様だ。空間はそれらを誘発するための様々な可能性を持たなければならない。このような施設では、「空間」もケアの重要な一要素で、いい空間といいケアが相互に作用することで痴呆性老人のためのケア環境ができあがることを忘れてはいけない

(概要文責 編集部)

こもれびの家データ


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