小布施・北斎館──高橋克彦
42丁目アートプロジェクト──古橋悌二
今、バルセロナにて──松本キミ子


小布施・北斎館
高橋克彦(作家)

北斎館を訪れて、北斎の天井絵が嵌め込まれている祭り屋台を下から見上げると極彩色の波が屋台から噴出して、そのまま空に広がっているような思いにとらわれた。天井絵だけを外して見たのでは感動が10分の1も伝わられない。

浮世絵の小さな画面では理解できない本当の北斎がここにいる。この町の岩松院には北斎のもっと巨大な天井絵も残されている。

どちらも北斎の画集にはたいてい掲載されているが、それを見ても構図を知るだけだ。その場所に行かなければ体験できないものを与えるのが理想の美術館なら、北斎館は正しくその典型だ。

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42丁目アートプロジェクト
──思いがけない場所でのアート・プレゼンテーション
古橋悌二(ダムタイプ)

ニューヨークの42丁目アート・プロジェクトは、廃業した映画館、レストランなどの内部やウィンドウ等を使用して様々なアーティストが表現を試みるものだ。

このプロジェクトを企てたクリエイティヴ・タイムは、美術を現実社会の中へ引き戻そうと、パブリック・アートの可能性を20年以上も模索してきている。

ダムタイプの“pH”も、彼らのプロデュースのもと、ブルックリン・ブリッジの橋桁内部の巨大な空間で行われた。橋の上を大型トラックが通るたびに天井から煉瓦の細かい破片が落ちてくる。
ここには、自分たちの夢は自分たちの手でものにするんだという自由な人間の姿がある。


ブルックリン・ブリッジ橋桁内部の“劇場”
Photo:Shiro Takatani

今、バルセロナにて
松本キミ子(キミ子方式提唱者)

17年振りのバルセロナは、すっかり清潔になった。
中世の建物に、キリストのはりつけ像や聖母マリア像がたくさんあるフェデリック・マレー美術館に行った。そこで私は17年前を一気に甦させた。

17年前、この美術館で、ステキな男性に出会った。
私たちは美術館の中で、好みが全く一致するのを確認し、勇んで翌日のデートの約束をした。

しかし、待ち合わせ場所についてきた友人を気にして、約束の時間から30分待って切り上げた。
私1人だったら、3時間でも5時間でも待っただろう。37歳だった若気が悔やまれる。
それを思い出すと、目の前の聖母マリアが涙で見えなくなった。


(いずれの文章も概要文責 編集部)


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