美術と美術館 長谷川栄
1930年東京生。品川区O美術館館長・おかざき世界子ども美術博物館館長
著作は『これからの美術館』『新しい美術館学──エコ・ミューゼの実際』『美術館都市への旅』『新しいソフト・ミュージアム──美術館運営の実際』他


長谷川栄著『新しい美術館学』三交社刊

これからの美術館計画では、まず美術館を企画するキュレーターやアーキテクトが、アートの未来的展望を可能とさせる理解力や問題意識をもつことが前提である。
美術館は、美術の多様な変貌に従って、大変革を遂げねばならない。究極にはまったくの「無」で、ハコを形成しないことがベストなのかも知れない。いろいろ建築家がアートのためにやっていることが、アートにとって押しつけのスペースのようにみえるときさえある。

美術館と展示の思想との関係は密接で、いままでのような“線形形式”の羅列展示では、在来の概念の美術館建築でこと足りるかも知れない。
しかし、コンテンポラリーとなるとそうはいかない。ポンピドー国立芸術文化センターが、現代美術・工業デザイン・音楽音響・情報を横に貫く新方式のミュージアムとしてデビューしてから、様相が一変したのである。

現在、アミュージアムという、アミューズメントとミュージアムを複合させた、娯しいミュージアムという意の新語が流行り始めている。それほどに従来のミュージアムは堅苦しかったのだが、美術を“権威の象徴”として拝むか、“親しみ娯しむ”市民的な暖かさで包んでいくかの差でもあろう。

建築や環境の企画にあたっては、ハードの建設以前に、そこにおかれ、あるいはメディアとして参加し、あるいは激しくぶつかり合い機能していくべきアートと同じレベルで、創造上の交流をまず起こし、それが建築的にも可能になって、はじめて設計に進んで貰いたい。
美術と同じレベルで美術館の空間を考えることは容易ではないが、文化というものはそういうふうにして生まれてきたものである。

(概要文責 編集部)

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